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「海野宿」は、軽井沢と善光寺門前町を結ぶ北国街道の中間あたりに位置し、江戸時代に宿場町として開設されてから現在に至るまで、大きく様子を変えることなく歴史を紡いできた稀有な場所。延長650 m、幅10 mの旧北国街道の両側には、旅籠屋造り、蚕室造り、茅葺屋根など歴史を感じる約100棟の建物が残っており、「宿場町・養蚕町」で重要伝統的建造物群保存地区の選定を受け、今も大切に住み継がれている家々の佇まいからは、歴史を重ねてきたゆえの美しさや懐かしさが感じられます。表に格子戸がはまった家並み、屋根にあがる防火用の壁「うだつ」、2階格子の持送りや出桁(だしげた)といった特徴的な意匠を見ることができますし、「歴史かおる街・海野宿」として「日本の道100選」にも選ばれている通りには、江戸時代から変わらぬ位置に「表の川」とよばれる用水堰が流れており、馬に水を飲ませたり、旅行者が足を洗ったりといった江戸時代の風景に思いを馳せることができます。

初めて訪れたこの地に歴史の風情を感じ心惹かれていたところ、なんと数週間後、偶然にも海野宿の伝統的建造物とのご縁をいただきました。2階の窓から白鳥神社のご神木を間近に見た時、大げさかもしれませんが、この地を大切にしてきた先人たちからバトンを渡していただいたような気がして、「この居で紡がれた100年のときを、この先へ・・・」、そんな想いをもって再生を決意しました。

海野宿の建物は、住居として人々の日々の暮らしを支えているものが多く、旅人が建物の中に入れるものはあまりありません。そこで、訪れる人に「暮らすように」ゆったりとしたときを過ごしてもらいたい、その和やかな時間の中でもっとこの地の文化や魅力に触れてもらいたい、そう考え、旅人のひとときの住まい「旅舎」として、また時にはよりオープンな場として活かすことにしました。

築100年程度ですと、海野宿の中では比較的新しい建物の一つですが、昔ながらの通り土間や、養蚕家の名残りを感じる造りも見られました。そんな「とき」を感じさせる佇まいと、古き良き和の意匠を大切にし、必ずしも便利でなくても心地よく感じるものを、そんな視点で設えた空間に、温かくて懐かしい気持ちと、快適さを感じていただけたら幸いです。

ここで過ごす旅人のときが、新しい譜として積み重なり、またここから先に引き継がれてゆきますように。そして何よりこの 旅舎 ときの譜 での時間が、旅人にとって素敵なひとときとなることを願っています。どうぞゆったりとお過ごしください。

旅舎ときの譜  尾崎啓一

ご挨拶

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